【試乗記】70スープラ(Vintage Club by KINTO)
2023-12-27
KINTOのハマやんによる試乗記。今回は70スープラに乗ったハマやん。 『グランドツーリングカー』 ・『30年経っても健在なGTらしさ』を実感した存在だったようです。
KINTOの“旧車”プロジェクト『Vintage Club』でレストアされたクルマ。 “旧車”としては新しめな1992年式の70スープラは、今の交通環境にも通用する『グランドツーリングカー』で、特にその搭載エンジン“1JZ-GTE”は、パワー感や回り方の質感など素晴らしいものがあり、『ガソリンエンジン時代のピークだったのかもしれない』との思いが浮かびました。
著者:ハマやん
クルマ大好き、元トヨタの企画マン。公私合わせて1,800台以上のクルマに試乗。
〔外観〕ロングノーズのGTらしいスタイルの70スープラ。『スペシャルティ(60まで)以上、スポーツ(80から)未満』という言葉が思い起こされました。
〔車両概要〕1992年式(平成4年4月初度登録)・走行171,000km
〔参考:主要諸元〕
全長x全幅x全高・WB・車重;4620mmx1745mmx1300mm・2595mm・1600kg
1JZ-GTEエンジン;2491CC,280PS/6200rpm,37.0kg・m/4800rpm(JISグロス値)
サスペンション前/後;ダブルウィッシュボーン,タイヤ;225/50R16*サイズ *;タイヤは235/40R18に変更
〔レストア〕トヨタ自動車株式会社
〔レストア時・主な改造項目〕
・235/40R18タイヤ&ホイール
・スポーツエアクリーナー・スポーツマフラー装着
・足回り(車高調)変更
・トヨタ純正本革仕様ハーフレザーシート
・ステアリング&シフトノブ
①スペシャルティ以上・スポーツ未満の『グランドツーリングカー』
クルマのパッケージングは、そのクルマのコンセプトやキャラクターをほぼ正確に表現しているものですが、この70スープラは、まさにその通りで、先代60(セリカXX名称の上級スペシャルティ)以上、次の世代の80(スポーツカー)未満の『グランドツーリングカー』に仕立てられています。(※主要諸元比較を載せておきました)
外から眺めてみても、またクルマに乗り込んでみても、同様の感想で、全体のプロポーションやデザイン要素、運転席に座っての囲まれ感など、60とも80とも違うGTカーの雰囲気に溢れているような気がしました。
(mm) | 全長 | 全幅 | 全高 | ホイールベース |
---|---|---|---|---|
60スープラ | 4600 | 1690 | 1315 | 2615 |
70スープラ | 4620 | 1745 | 1300 | 2595 |
80スープラ | 4520 | 1810 | 1275 | 2550 |
②現代の交通環境下で『普通に乗れるクルマ』
このスープラの年式は1992年。なので、既に30年前のクルマですが、現代の交通環境適合度合いは、50年前(初代セリカやTE27レビン)や40年前(初代ソアラ)のクルマたちとは大きく違い、特段気遣う事もありませんでした。
マニュアルTMのため、古いATに感じる時代感覚(今のATがとても進化しているために相対的に感じる古さ)がないことは大きな要因ですが、それ以外の操作系(スロットル・ブレーキ・クラッチ・ステアリング)や、スイッチ類(パワーウィンドウ・パワーシート・空調など)についても、今のクルマと大きな違いはなく、極端に言えば、『今のクルマ』として扱っても何の問題もない感じがしました。
『特別なクルマに乗っている』感覚や、『そのクルマの造られた時代を感じたい・・・』といった“旧車趣味”的な見方からは、あまり面白くないかもしれませんが、30年前に造られて、171,000kmも走行したクルマという事を考えると、とても価値があり、また丁寧な作業でレストアされたクルマと言えそうな気がします。
③1JZ-GTEエンジンのパワー感・質感がたまらない。『ガソリンエンジン時代のピークだったのかもしれない』との思いが浮かんできた
このスープラが乗りやすかった理由の一つはエンジンにありました。70スープラの登場時(1986年)に搭載されたトップオブザラインの3リッター7M-GTEUに変えて、90年に搭載された“1JZ-GTE”エンジン。
個人的には、これまで乗った記憶のない1JZ-GTEで(3Lの2JZ-GTEや2JZ-GEはアリストで経験していたが・・・)、しかもマニュアルTMで乗るのは初めての体験でした。 今回の試乗では、街中のちょっとした加速(1速~2速)や高速道路への進入や追越しが、そのポテンシャルを探る機会だったのですが、『パワー感が素晴らしく、速い!』だけでなく、その回り方の質感や音(装着されたマフラーゆえかも)も、とてもワクドキ感あるもので、正直びっくりしました。
調べると、『トヨタ初の280馬力5MT車・280馬力としては当時最小排気量のクルマ』と書かれてありましたが、そんなスペック上の特徴だけでなく、乗り味として素晴らしいものがあると感じられ、『ガソリンエンジン時代のピークだったのかもしれない』との思いが浮かんできました。
▽『GTらしさ』は30年経っても健在
現代の交通環境下で『普通に乗れるクルマ』であることを前述しましたが、色々な意味で、70スープラの特徴である『GTらしさ』が30年経っても健在しているクルマだと思いました。
>エンジン性能が充分以上で、マニュアルTMとの組み合わせで、街中でも高速でも交通の流れをリードしうるポテンシャルがあること
>ブレーキに信頼感があり、街中でも高速でも不安を感じる事がないこと
>結果的に、高速クルージングがラクかつ面白いこと。
これらの特性により、スポーツカーとしては80スープラのようにはいかないが、高速長距離移動を得意とする『GTらしさ』は充分に持っており、その特性は今の世の中でも通用するもの・・・そんな感じがしました。
▽トヨタのスポーツ車・歴史の中で、スペシャルティからスポーツに進化するその過程を今に伝える重要な車種
冒頭、スペシャルティ以上・スポーツ未満の『グランドツーリングカー』と、この70スープラのことを表現しましたが、それは決してネガティブな意味ではありません。 むしろ、トヨタスポーツの歴史を見るうえで、とても重要な『スペシャルティからスポーツへの進化過程』を今に伝えるクルマという意味もあるからです。
〔トヨタのスポーツ車・スペシャルティ車の歴史〕 細かく歴史考証すると、大変膨大なことになってしまいますが、大きく捉えると以下のような歴史だと思います。
年 | スポーツ車種 | スペシャルティ・GT | 備考 |
---|---|---|---|
1965 | トヨタスポーツ 800 | ||
1967 | トヨタ 2000GT | トヨタ 1600GT | |
1970 | トヨタセリカ | ||
1972 | トヨタ TE27 レビン/トレノ | ||
1981 | トヨタソアラ | ||
1983 | トヨタ AE86 レビン/トレノ | ||
1984 | トヨタMR2(10) | ||
1986 | トヨタ70スープラ | ||
1989 | トヨタMR2(20) | ||
1993 | トヨタ80スープラ | ||
1999 | トヨタMR-S | ||
2012 | トヨタ86 | ||
2019 | トヨタGRスープラ | ||
2020 | トヨタGRヤリス | ||
2021 | トヨタGR86 |
(補足)①セリカやレビン/トレノのモデルチェンジは省いてあります ②MR2は“ミッドシップランナバウト”として発売されたが、クルマの成立ち上、この表に入れておきました
トヨタスポーツ800や2000GTから始まるトヨタのスポーツ/スペシャルティ商品系列では、70年代のセリカ・初代レビン/トレノ、80年代のソアラ・MR2と、様々な新商品が投入されてきたわけですが、そうした背景の中で、セリカのバリエーションとしてつくられたのが“XX(日本名)”で、そのセリカXXが進化(40⇒60)しGT化したものが、70スープラです。(ちなみに、70スープラが新発売された当初は、キャッチフレーズとして“TOYOTA 3000GT”という名称が使われていました)
70スープラは、7年間のモデルライフで、その後の80スープラ(よりスポーツカー的に生まれ変わったクルマ)にバトンタッチしましたが、80スープラのスポーツカーとしての資質が高いだけに、70は少し陰に隠れた存在と思われるかもしれません。
しかしながら、こうしてトヨタスポーツの歴史を紐解いてみると、セリカ(XX)という『上級スペシャルティ』が、70スープラで『グランドツーリングカー』へと進化し、更に80スープラで『スポーツカー』へと進化してきた・・・ことがわかり、その中で、70スープラとは、トヨタが刻んできた『スポーツ車』の歴史上、重要な役割を担ったクルマなのではないか?・・・そのような感想を持った『70スープラ』試乗でした。